仙台高等裁判所 昭和28年(う)325号 判決
しかし、刑法第二百五十三条のいわゆる「業務」には本務、兼務、他人に代つて事実上行う事務及び慣例上本来の事務に附随して行う事務等のすべてが含まれるのである。本件において、原判決挙示の証拠によれば、原判示の如く被告人浅地は原判示農業協同組合長として食糧管理法令に基きいわゆる供出米を政府所有貨物として保管するほか、右事務に附随して政府の発行する荷渡指図書発行後買受人がこれと引換に供出米を引取るまで買受人のためにこれを保管することを常業としていたことが認められるから、原判決が被告人浅地において右荷渡指図書が発行されて買受人会津南部食糧卸協同組合の所有米となつた米を同組合のため保管していたことを目して業務上保管と認めたのは固より正当である。論旨は理由がない。
T弁護人の控訴趣意(一)(二)(三)(五)及びI弁護人の控訴趣意(一)(二)(三)(四)(五)(七)について。
所論は、要するに、被告人浅地は本件保管米を不法に領得する意思も不法に領得した事実もなく、又原審相被告人長嶺と共謀した事実もないのであつて、しかも長嶺は本件米の所有主たる会津南部食糧卸協同組合に借入証書を差入れてこれを借用したものであり、なお被害者たる同組合には事実上損害がないのであるから、本件は食糧管理法に触れるは格別、業務上横領罪は構成しないというのである。しかし、原判決挙示の証拠によれば、原判示第二の事実特に被告人浅地は原判示農業協同組合長として原審相被告人長嶺は同組合倉庫係として原判示の如くいわゆる供出米を政府所有貨物として保管し、政府の発行する荷渡指図書が発行された後買受人がこれと引換に供出米を引取るまでは買受人のため保管していたものであること、長嶺は原判示の如く右保管に係る政府所有米に生じた鼠害補填策として保管米を農家に貸付けて得る利息米を以てこれに充当しようと考え、これが実行につき予め被告人浅地の諒解を得たこと、これに基き長嶺は保管中の右荷渡指図書が発行されたが未だ買受人が引取つていない原判示買受人会津南部食糧卸協同組合所有米を原判示の如く村内二十名に対し貸付けたこと、及び右貸付については所有主たる右協同組合に借入証書を差入れた事実も同組合の承諾を得た事実もないことを各肯認し得るのであつて、記録を精査しても原判決の右事実認定に誤謬あることを疑うべき事由は存しない。しかして、横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは他人の物の占有者が委託の任務に背いてその物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいうのであつて、必ずしも占有者がこれを自己の所有物とし若しくは自已の利益をはかる意思あることを必要とするものではない。されば、所論の如く被告人浅地が一粒の米も利得しなかつたとしても、右認定事実自体から、被告人浅地は横領罪の成立に必要な不法領得の意思のあつたこと及び不法領得の事実のあつたことを知ることができるのであつて、なお被害者たる前記協同組合に経済的損害のあつたことは勿論であるから、原判決が被告人浅地の原判示所為に対し業務横領罪を以て問擬したのは固より正当である。所論は、畢竟、原判決の採用しない証拠に立脚して原判決の事実認定を非難し、或は独自の法律見解を主張して横領罪の成立を否定するに帰し、採用できない。論旨は理由がない。
(後略)